自然の木と心のかかわり合い
もし自然の木がなかったら、建築はどんなにさみしいものになってしまうだろうと
感じることがあります。
今、木と出会えることは私にとって自分の仕事・暮らしを含めて幸福なことです。
建築の中で、自然木は住む人の心をそっと癒してくれます。
無意識のうちにずっとそばにいて、やさしく包んでいてくれます。
もし突然木のない空間で生活することになれば、
大事なものがないことに気づき、
木のぬくもりが恋しくなり、
いたたまれなくなってくるのだと思います。
子供の頃の母のように、いつもそばにいて微笑んでくれます。
決してうらぎりません。
居心地よく、静かにそっと支えてくれます。
それだけに自然の木は建築にとってかけがえのないものです。
生活の中にいろいろな木があることにより、
人間の五感も刺激されます。
その環境で育ってゆく子供たちの感性にも大きな影響を与えます。
桧・杉・ヒバ・楠など、それぞれの自然の香りと癒されるにおい、
思わず触りたくなる自然木のやわらかで温かな手触り、
見ていて飽きない木目のやさしさと安心感、
光のあたりによって違う木の表情、
物を置いた時の木のあたる音はやわらかく、大事にされた思いになります。
舌で味わったことはないけれど、
味だってそれぞれに違うはずです。
それぞれの人が、それぞれに違う何かを感じて暮らす事ができます。
それは生活のおもしろみや楽しさを与えてくれます。
生活の質の後押しにもなります。
自然の木は何ひとつ同じものはありません。
作り手によって磨いたり加工したりと手をかける事により、
よりよいものになったり、また悪くもなります。
ユーティリティな素材です。 自然木は住みながらアンティークになっていきます。
過ごした時間がしみついてゆくように、
柱はあめ色に変わって何とも言えない味になり、私たちに語りかけてきます。
建築のなかに自然木があることで、
暮らしが和やかになり、楽しくなります。
そして充実感や情緒を生みます。
建築にとって、自然の木はかけがえのない宝物です。