丸太梁の家
住宅は今、量産化の波にのり、大量生産された新建材で
日本のどこでも同一化した住宅が、短期間で建てられています。
その土地にあった風土性は失われ、個性的な家もなくなりつつあります。
外はサイディング、内はビニールクロスなど人工的な新建材の中では
人それぞれの感じ方や個性の差は小さくなり、均一的な感情しか
生まれてこなくなりそうです。
五感で感じることが少なく、情緒や芸術的な感覚がふくらみません。
自然の木でつくりあげた住宅には、それぞれ個性があり、木のにおい
ぬくもり、感触があり、五感を刺激し、季節感や空気感を与えてくれ、
生活を豊かにしてくれます。
住宅の役割であるあたたかみ、包み込むようなやさしさで
やすらぎを与えてくれます。
そして、自然と共存して生きていることを常に感じます。
そんな折、ある建築主さんから、「丸太梁で美しい木組みの家を
建てたい」という設計の依頼がありました。
今どき、なかなか丸太を使っての本格的な和風住宅の建築は少なく、
建築士として、そんな仕事が出来る事のありがたさを感じます。
現在、大工さんが加工場でチョウナという道具を使い、カメの甲らとか
鎌倉彫りのように丸太の表面を削っています。
どっしりした丸太が、やわらな表情になってきました。
今、加工している大工さんも、かつては新建材を使って家を建てていましたが、
無垢の木の家の仕事をしたいと、私のところに来ました。
慣れない作業を、一つ一つ丁寧に進めています。
「苦労だけど、こういう仕事が出来るって幸せだ」と、その大工さんも
私とおんなじような事を言っています。
丸太の自然の曲がりをみながら、仕口や継ぎ手を考え、美しい木組みを
つくっていく。
その人だけの大工技術で木組みが完成した時、ひとしおの喜びを
感じるのだと思います。
苦労のあとには、喜び、達成感がひろがり、それが、技術の向上にも
つながってゆきます。
私たちも、ふと気づけば木に魅せられ、とりこになって仕事をしているみたいです。
私は、少しでも住まい手が木の良さを知って、本物の家を建ててほしいと
思っています。
そのきっかけになるよう、木に触れて感じる機会を多く作ってゆきたいと
考えています。
(植松)