住宅と建築士
私は、施工者であり建築士です。建築士が、この不況の時代に生きてゆく道を考えてみました。
かつては建築ブームもあり、住宅の量産型も少なく、建物ひとつ ひとつを建築士の手で丁寧に設計していました。
今、有名な建築士は、評判や名声で設計依頼があるかもしれませんが、一般の建築士は、工業型の住宅が多く なったこともあり、建築士としての仕事の量と質はなかなかありません。
能力がありながら、建築主からの設計依頼は少ないのです。
また、施工者からの仕事の 依頼を受けても耐震偽装、度重なる不祥事で法律が厳しくなり、設計監理の責任が重く、リスクを考えながら仕事を選らばなければいけない状態です。
建築士に も施工者にも、きちんとした仕事はもちろん法的落ち度のないことを要求される厳しい時代です。
私の場合は施工までしていますので、全責任を私が負わなけれ ばなりません。
住宅建築の量も減り、建物の大半は量産型、規格化になり、建築士の仕事といえば限られた工業製品の中から建物のグレードに合った仕 上げを決め、必要な法的チェックをするくらいかもしれません。
建築士として考えなければならない間取り、形、質感、色等を考えて、その人に合った家を生み 出すという仕事がなくなってきています。
このまま時代の流れに任せていいのでしょうか。
本来あるべき姿に戻していかなければ、今まで引き継いできた建物の 技術も伝統もなくなってしまいます。
工業住宅ばかりでは建築士は必要なくなり、建築士の未来もなくなってしまいます。
原因の一つは建築士が身近で ないこと。
建築のことを何でも話せる近い存在でないことだと思います。
一般の方と触れ合う機会を、自らが努力して作ってゆかなければならないと思うので す。
建築主は、規格製品を望んでいるわけではないと思う。
自分に合った唯一の建物を望んでいるはずです。
出来合いの建物を建てるのなら、建築士は必要あり ません。
建築主が興味を持ち勉強し、そこからこだわりが生まれ、独創性ある建物を希望したとき、示唆役として建築士が必要になってくると思います。
建物の 事を知れば知るほど、興味を持てば持つほど、建築士が必要になってくるのです。
建築主と建築士の共通の目的である「良い建物を建てる」ためにも、 建築士と建築希望の方といろいろな勉強会を一緒に行うとか、定期的にテーマをもって建築の話をするとか、時間を共有して身近にならなければならないと思い ます。
そして、建築希望の方に形や色、質感を覚えてもらい、何を求めているか、どういうものを欲しているかをつかんでいただきたいと思う。
それを通して家 づくりの楽しさや質感を感じ、規格品にはない、その人に合った独自性のある住宅が出来る喜びを感じてほしいと思います。
建築士の仕事、役割を少しでもわかってもらい、建築士に頼めばそれだけのメリットがあるとわかっていただければ設計依頼もきます。
建築主が建物に興味をもち、建築士が身近で頼みやすい存在になれば、その人独自の、より良い家づくりが出来るのではないでしょうか。